こくりこっくり25時間
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五. 碧く紅く
若さは死を以って初めて青く光る
絶えることの無い命に輝ける資格はなく
老いることの無い子供が夢見る未来は無い
ただこの身を腐らせて生きていくのなら
ひと思いに紅く温かな血を滴らせ
この輝ける実を、肉をあらわに
熱い涙を空へとほとばしらせ
魂を叫びに変えて
世界をしっかりと見据えたまま
ああ そっと
息を止められたら
若さは死を以って初めて青く光る
絶えることの無い命に輝ける資格はなく
老いることの無い子供が夢見る未来は無い
ただこの身を腐らせて生きていくのなら
ひと思いに紅く温かな血を滴らせ
この輝ける実を、肉をあらわに
熱い涙を空へとほとばしらせ
魂を叫びに変えて
世界をしっかりと見据えたまま
ああ そっと
息を止められたら
六. 仮面
姫はそっと息を止めてみた。
でもすぐに苦しくなって、溜息のようで熱い呼気を少しだけ吐き出した。
姫は泣いていた。
すすり上げるような音も出さず、息を止め、ただ全身の筋肉を弛緩させ、悲しみに身を任せていた。
彼女のための美しい彫刻があしらわれ、黒く輝く鏡台の前に力なく腰をかけて泣いていた。
もう涙は出ない。
泣き始めたのはつい先刻であったが、最初にシルクの寝巻きを濡らした一粒が彼女の肌に冷たく感じられるころにはすでに涙が枯渇していた。
瞳の黒い真珠は魚のそれのように、ただ一方を、鏡の中を見つめて動かなかった。
瞳だけではない。やさしくなめらかな肌、自然に閉じられた唇、眉は死んだ様に蒼く、無表情のまま仮面のように微動だにしない。
自分の存在を確かめるように、彼女は少しだけ声を出してみることにした。
「なみだも でない」
その声はやはり無表情で、掠れこそしているが震えはなく、命じられて文章を読み上げる声、あの感じに似ていた。
たどたどしさではない。口にしていることに興味がないのだ。
「わたしは、リュ・ウォンです」
感情の一切を感じさせない、揺るがない声。
その声は、美しく飾り立てられた部屋に、不思議と雄弁に響いた。
でも、違う。私の出したい声は…
もう一度、同じ言葉を繰り返してみる。
「わたしは…」
「ワタシワ!」
甲高い声が彼女をさえぎった。鏡台の横に置かれた大きな鳥かごからバサバサと羽を翻す音がする。
その風がドレスのフリルを緩やかにひるがえした。
姫は動かない。鏡の中のじぶん・・。
「ワタシハリュ、ウォンデス、ワタシワりゅ、りゅ、りゅるるるるるる、ミナサマミナサマルルル…イイコ、イイコ、エライネェ!」
羽の冠を揺らして、彼は自分を褒めてくれるはずの姫の言葉を先回りしてみた。
このオウムには、彼女が泣いているとは思えなかった。
ただ、無表情に一点を見つめて、なんとなく、スピーチの練習をしているようにしか思えなかったのだ。
鳥だから?
しかし、姫とずっと過ごしてきたオウムだ。
「イイコ、イイコエライネェ!エライネエ!ウレシng、ウレシイネエ!コノタビハ、オコシくるくるくるくラサイマシテ、マトトニ…マシタ…ドウゾカイチョクヲ、オタノシミクダサイ!」
姫は眉毛ひとつも動かさない。
動かせなかった。
姫は泣き続けた。涙の一滴も流さずに、じっと一点を見据えたまま、心だけで泣き続けた。
笑おうとしても笑えない。
泣こうとしても泣けない。
声の抑揚もコントロールできなくなってしまった。
感情が全部消えてしまったみたいだ。
あの夢をみてから、すべてがなんだかおかしくなってしまった。
彼女は見えない顔の仮面を今すぐに引き剥がしたかった。
昔はそれをあれほど欲していたというのに。
姫はそっと息を止めてみた。
でもすぐに苦しくなって、溜息のようで熱い呼気を少しだけ吐き出した。
姫は泣いていた。
すすり上げるような音も出さず、息を止め、ただ全身の筋肉を弛緩させ、悲しみに身を任せていた。
彼女のための美しい彫刻があしらわれ、黒く輝く鏡台の前に力なく腰をかけて泣いていた。
もう涙は出ない。
泣き始めたのはつい先刻であったが、最初にシルクの寝巻きを濡らした一粒が彼女の肌に冷たく感じられるころにはすでに涙が枯渇していた。
瞳の黒い真珠は魚のそれのように、ただ一方を、鏡の中を見つめて動かなかった。
瞳だけではない。やさしくなめらかな肌、自然に閉じられた唇、眉は死んだ様に蒼く、無表情のまま仮面のように微動だにしない。
自分の存在を確かめるように、彼女は少しだけ声を出してみることにした。
「なみだも でない」
その声はやはり無表情で、掠れこそしているが震えはなく、命じられて文章を読み上げる声、あの感じに似ていた。
たどたどしさではない。口にしていることに興味がないのだ。
「わたしは、リュ・ウォンです」
感情の一切を感じさせない、揺るがない声。
その声は、美しく飾り立てられた部屋に、不思議と雄弁に響いた。
でも、違う。私の出したい声は…
もう一度、同じ言葉を繰り返してみる。
「わたしは…」
「ワタシワ!」
甲高い声が彼女をさえぎった。鏡台の横に置かれた大きな鳥かごからバサバサと羽を翻す音がする。
その風がドレスのフリルを緩やかにひるがえした。
姫は動かない。鏡の中のじぶん・・。
「ワタシハリュ、ウォンデス、ワタシワりゅ、りゅ、りゅるるるるるる、ミナサマミナサマルルル…イイコ、イイコ、エライネェ!」
羽の冠を揺らして、彼は自分を褒めてくれるはずの姫の言葉を先回りしてみた。
このオウムには、彼女が泣いているとは思えなかった。
ただ、無表情に一点を見つめて、なんとなく、スピーチの練習をしているようにしか思えなかったのだ。
鳥だから?
しかし、姫とずっと過ごしてきたオウムだ。
「イイコ、イイコエライネェ!エライネエ!ウレシng、ウレシイネエ!コノタビハ、オコシくるくるくるくラサイマシテ、マトトニ…マシタ…ドウゾカイチョクヲ、オタノシミクダサイ!」
姫は眉毛ひとつも動かさない。
動かせなかった。
姫は泣き続けた。涙の一滴も流さずに、じっと一点を見据えたまま、心だけで泣き続けた。
笑おうとしても笑えない。
泣こうとしても泣けない。
声の抑揚もコントロールできなくなってしまった。
感情が全部消えてしまったみたいだ。
あの夢をみてから、すべてがなんだかおかしくなってしまった。
彼女は見えない顔の仮面を今すぐに引き剥がしたかった。
昔はそれをあれほど欲していたというのに。
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